# 1915 - 1919
## 概要
1915-19年は舞台女優としてのアイデンティティ確立と並行し、ファルコネッティが現場経験を急速に蓄積、出演の「数」そのものが存在感を形作っていった時期に当たります。
高等音楽・舞踊学校に籍を置きつつパリのオデオン座と契約を果たし1915年に舞台女優デビュー。当初は脇役で現場経験を重ね、すぐに準ヒロイン〜ヒロイン格の役柄を引き受けるようになっていきます。彼女の女優キャリアで単年度当たりの出演作数が一番多いのがこの時期であり、時には同じ一ヶ月で2〜3の複数の演目を任されることもありました。
出演作は恋愛喜劇とメロドラマが過半数を占めており、合間を縫うように歴史ドラマ( 『嵐の孤児』 )、古典悲劇( 『イフィジェニー』 )が含まれています。男女かけあいの形式を採ったオペレッタ( 『麗しき役どころ』 )は声の良さと歌唱力に定評があった彼女ならではのレパートリーで、同世代女優との差別化に一役買っています。また他の期間には見られない悪役・憎まれ役( 『カルモジーヌ』 )を演じているのもこの時期ならでは。
1915-19年はフランスが大戦に参戦していた時期と重なっています。出征者増に伴う業界の縮小は避けられず、終戦まで首都で運営を続けていた劇場はコメディー・フランセーズ座とオデオン座の二つだけとなっていました。演劇誌休刊も相次ぐ中、新進女優ファルコネッティの存在がメディア上で大きく取り上げられる機会はありませんでした。それでも実績を残し続け、経験値を蓄えていった成果は終戦後、オデオン座最後の出演作となった『ある女の一生』の主演マリーにつながっていきます。
「この作品は通常の舞台に適用されるルールが一切当てはまらない」(ル・ランプ誌)。肉親や恋人の裏切り、性的略取、虐待…一女性の不幸な生き様をすさんだ社会模様と絡めながら描いた世界観はそれまで彼女が演じてきた作品群と質を違えたものでした。「わたくしは1919年のオデオン座、サン・ジョルジュ・ド・ブエリエ氏の『ある女の一生』で舞台デビューを果たしました」(1930年のインタビューより)。事実関係の点で正確ではないものの、「優美」 「魅力的」 「愛らしい」」の形容で語られていたファルコネッティが旧来の娘役の型を脱却、少なくとも当人はこの時点を自身の舞台女優の転機として認識していた可能性は高いと思われます。
また彼女にとって初の映画出演となった『道化』 『ソムリヴ伯爵夫人』はこの下積み期半ばの1917年に公開。当時パテ社が得意としていた文芸路線で、製作は舞台畑の俳優を母体としたSCAGL社。ファルコネッティは前者で主人公を取り巻く群像の一人、後者ではメロドラマの軸となるヒロイン役で登場。両作とも仏GPアーカイヴに不完全版が現存しています。修復~再公開の折にはオデオン期の文脈を念頭に、脇役時と主役時それぞれの演技スタイルを分析していく手がかりになると期待されます。
## 同時代資料から見える動き
- オデオン座でのデビュー年月日に関しては本人インタビューを含め資料によって解釈のずれがある。本プロジェクトでは評伝『ファルコネッティ伝』に従い1915年5月29日 『求婚』を年表の起点としていく。([[引用|1916-02-15|Le Journal||引用|1916-02-15|Le Journal|]]、[[引用|1930-01-18|L'Oeil de Paris|]]、[[1987 - 『ファルコネッティ伝』 (エレーヌ・ファルコネッティ)|『ファルコネッティ伝』]])
- 「学ぶべきことはまだ多い」など若干の保留が見られる以外、この時期の演劇評は押しなべて好意的。ただし評価語に「優美 (gracieux)」 「魅力的 (charmant)」 「愛らしい (aimable)」 「素敵/感じの良い (delicieux)」が多用されており、演技力や表現力以上に外観や雰囲気で評価されているのが分かる。([[1916 - 『戦中オデオン座通信』]]、[[引用|1917-04-11|Le Rappel|]]、[[引用|1917-03-01|La Rampe|]]、[[引用|1917-06-28|La Rampe|]]、[[引用|1918-09-15|La Rampe|]])
## 評価と留保
この時期の後半、大戦末期に当たる1917年後半~18年前半にかけてはオデオン座関連のみならず仏演劇界全体について現存する当時物資料が少ない。公演と鑑賞をめぐる環境そのものが疲弊、脆弱化していた痕跡と考えられます。この時期の専門誌や日刊紙に掲載された演劇評から当時の評価を再構成する場合、あくまでも「平時ではない」状況下の言説であった点に注意が必要。鑑賞機会と観客数の双方が減っていた中で評価が上振れ/下振れしている可能性があります。
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